地下鉄名港線「築地口」駅の出口を出てすぐ隣にある店舗が、名古屋港エリアの老舗和菓子店・桔梗園である。歴史をよくよく聞いてみると、この辺り一帯でいろいろなビジネスを広く展開していた桔梗園は、かつて料亭や映画館なども運営していたのだそうだ。地下鉄名城線が名港線として延伸が決まった時に、昭和47年の地下鉄建設とともに桔梗園のビルも新たに建てられたのだろう。
明治元年生まれの初代は、明治中期に白鳥のあたりで和菓子屋を創業。2代目が引き継いでしばらくした時に、現在の場所へと移転した。名古屋港の開港が明治40年(1907年)であることを考えると、桔梗園の歴史は、名古屋港とともに歩んできていると言っても過言ではない。名古屋港に多くのモノ・コト・ヒトが集まるたびに桔梗園の和菓子もいろいろな人の手に渡り、甘い美味しさで忙しい人々の心を癒してきたことだろう。
「地域とともに」この考え方は現5代目主人の水谷光貴さんにもしっかり受け継がれている。取材でお邪魔した日も、ひっきりなしのお客様であふれ、それぞれに思い入れのあるお菓子を買って満足げに帰って行く姿がとても印象的だった。
髪を茶色に染めた“いかつい”姿の若者が1人、お店に入ってきた。一見すると和菓子とは結びつかないようなイメージだが、意外にも第一声は「いちご大福ひとつください」。彼が帰宅して1人でいちご大福をパクッとしているシーンを思い浮かべたり、あるいはお母さんやおばあちゃんに買っていったのかもしれないと想像をふくらませたり。桔梗園の美味しい和菓子が、この地域にしっかりと根を張り、人々に愛されていることを証明するシーンであった。
住所:名古屋市港区名港1-20-13 築地ビル1F
TEL:052-661-1448
営業時間:10:00~19:00
定休日:日曜日
桔梗園の店の前を左方向へ、南の方角へと視線を移すと、その奥に名古屋港ポートビルが見えてくる。名古屋港のランドマークである。つまり、桔梗園から名古屋港までは一直線。桔梗園から名古屋港までの一帯は、“名古屋港の街”として、港の発展とともにずっと存在してきたエリアなのだ。
名古屋港は、日本で最大級の港湾であり、港の陸地部分は日本一の広さを誇る。年間の総貨物取扱量や貿易輸出額などは常にトップランク。実は、名古屋及び中部圏の経済を牽引しているのである。
そして桔梗園をはじめとした地元の人々は、名古屋港によって発展したこの地域に対して誇りを高く持っている。夏に開催される名古屋港まつりには地元をあげて盛り上げる。お店の周辺で立ち寄ってほしいところは?と質問すると、5代目ご主人はごく当然、といった雰囲気で「名古屋港ですね、名古屋港ポートビルに登って見晴らしを楽しむのも良いし、水族館に行くのもいいし、ガーデン埠頭臨港緑園もおすすめです」とニッコリ。
小さい時から名古屋港を遊び場にして育ってきたご主人ならではの一言だった。築地口に出掛けたら、桔梗園でお菓子を買って、のんびりお散歩気分で名古屋港まで歩き、和菓子ピクニックと洒落ましょうか。