こしあんの深い色合いを見ていて、その美しさにうっとりしたことはないだろうか。『日本の色辞典』(紫紅社・吉岡幸雄刊)によると、こしあんは、似紫(にせむらさき)色ではないかと思う。かつて紫はなによりも高貴な色とされ、庶民が着用できるようになったのは鎌倉時代以降なのだそうだ。
小豆のあんの色から“むらさきや”の店名をつけたのは、現店主のおじいさまだという。昭和3年(1928年)に、現在と同じ伏見の地にて創業した。「市電が広小路通を走っていた頃で、広小路が名古屋の中心だったそうです。和菓子屋もたくさんあったのではないかと思います」とご主人。
伏見はビジネス街であり、また老舗の名古屋観光ホテルや御園座もあることから、手土産の需要が多く、創業時から現在にいたるまで、上生菓子の名店としてその名を知られている。御園座に出演する歌舞伎俳優や有名女優からオーダーが入ることもあり、むらさきやの上生菓子のファンは全国に広がる。
戦後に経済が復興し、食材を冷やすための氷が比較的自由に手に入るようになり、その頃から水ようかんを作るようになったという。上質な材料で丁寧に作られるこしあんは、むらさきの名前を冠する店の看板でもある。今や名古屋の夏の手土産の代名詞ともなっている水ようかんは、毎年春になると、そろそろかしらと出始めを待つ人が多い。
また、店頭に出ている商品は、上生菓子は毎日5種類、その他はようかんのみ、という潔さである。上生菓子だけで勝負する和菓子屋は、名古屋広しといえど稀有ではなかろうか。
住所:名古屋市中区錦2-16-13
TEL:052-201-3645
営業:平日9:00〜17:00
土曜9:00〜15:00
定休日:日曜・祝日
※喫茶室の利用を制限している場合もございます。
最新の状況は、店舗に直接お問い合わせください。
地下鉄伏見駅から徒歩すぐのところにあるむらさきや。いわゆるビジネス街の中心地で、ビルが建ち並ぶエリアだが、むらさきやから南に向かって歩いていくと、突然、道の先に大きな球体がビルの谷間に浮かんでいるように見えるポイントがある。知らない人はおそらくびっくりするのではないだろうか。昭和37年(1962年)に開館し、平成23年(2011年)に世界最大のプラネタリウムを備えた名古屋市科学館である。
科学館のある一大空間は、文化施設と公園が一体になった白川公園だ。科学館のほかは、名古屋市出身の黒川紀章建築による名古屋市美術館、児童公園や彫刻の散歩道などがあり、季節ごとに散策を楽しむことができる。白川公園は、戦後は進駐軍が管理する場所で、進駐軍の家族が居住するアメリカ村と呼ばれる住宅が建ち並んでいたそうだ。
名古屋は車移動が多いと言われているが、伏見で時間を過ごすなら、ぜひ地下鉄やバスに乗って、あるいはサイクリングで訪れてみて欲しい。白川公園を一周散歩するだけでも、樹木や花の表情から四季を感じることができ、美術や科学にふれることができ、気づけば半日くらいはあっという間に過ぎていることだろう。
帰りにはむらさきやに寄って、喫茶室で美味しいお茶とお菓子を。いや、先にむらさきやに寄って、好きなお菓子を買い、白川公園でピクニックのようにして、お茶とお菓子を楽しむのも一興かもしれない。あるいは帰宅してからのお楽しみに和菓子を買って帰ろうではありませんか。