白いスクエアな外観に目を惹かれ、中に入ると漆喰の壁とガラスが融合した空間が広がる。天井からは麻布が幾重も吊るされており、そのデザイン性はこのお店の和菓子の意匠にも通じるモダニズムである。平成17年(2005年)の創業とお店としての歴史は比較的新しいが、そのルーツを辿れば江戸時代の尾張徳川家に行き着くのだそうだ。尾張徳川家の御用菓子屋だった桔梗屋が大政奉還後に3つの和菓子屋に分かれ、そのうちの1家に生まれ育ったのが花桔梗のオーナーである。
平成17年(2005年)当時のコンセプトは、10年後の和菓子屋を創るという思いから「伝統と革新」。自身のDNAに刷り込まれた名古屋の和菓子屋としての矜恃を保ちつつ、時代を先取りした感性で現代の暮らしになじむ和菓子を提供していく。店舗デザインの方向性はまさにその考え方を現していると言えるだろう。
今から10年後の和菓子はどうなっていると思うか?と尋ねると「原点回帰で、より伝統を重んじて四季を大切にしているのではないでしょうか。和菓子はその暮らしの一部になっているはず」と店主は語ってくれた。
その言葉を具現化しているなと思われるのが、花桔梗の和菓子たち。上生菓子や日持ちのする干菓子のラインアップに加え、かつて行列ができる和菓子店として知名度を一気に高めるきっかけとなったフルーツ大福は看板商品。その他、洋菓子素材と和菓子の奥深さを調和させた新しいスイーツなども積極的に発表している。
伝統をベースに意識しながら、現代の感性に合う和菓子をプレゼンテーションする姿は、まさに和菓子モダニズムの境地である。
住所:名古屋市瑞穂区汐路町1-20
TEL:052-841-1150
営業:10:00~19:00
定休日:1/1
URL:http://hanakikyo.com/
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名古屋の桜の名所は?と聞かれて、おそらく多くの人が山崎川と答えるのではないだろうか。閑静な住宅街を南北に流れる山崎川は、春夏秋冬でさまざまな表情を見せてくれる。
もっとも華やぐのは、春先のわずか1週間ほど。咲き始めから満開になるまでもいいが、筆者は個人的に、散り際で川面に花びらが舞ってゆく様がとても美しい風景だなと感じている。山崎川は、周囲が住宅街ということもあって、目ざわりになる照明がなく、散りゆく花びら一枚一枚がまるで意思をもった生き物のように見えるからだろうか。
花が散って若葉が繁るころも美しい。太陽の光にかざすと、若葉の生命力あふれる姿が見てとれる。山崎川はゆるやかに曲がりながら流れているからか、桜並木に沿って歩いていると、あっという間に地下鉄1区分くらいは歩いてしまっている。
近くには大正から昭和初期に建てられた東山荘もあり、回遊式林泉庭園は開放されているのでぜひ立ち寄ってみてほしい。綿布問屋だった伊東信一の別荘として建てられたもので、茶の湯の好みを生かして作った邸宅である。珍しい建築意匠もあり、見どころはたっぷり。山崎川〜東山荘〜花桔梗の道筋は、名古屋の和もの好きにとっては黄金のルートでもある。